ENGINE online/エンジン オンライン

思わずため息が出る渾身のクロノグラフは、持つ者に感動を与え続ける。


新作「ダトグラフ UP/DOWN」の発表会
クリックすると拡大
新作「ダトグラフ UP/DOWN」の発表会が行われたのは、A.ランゲ&ゾーネと縁の深いドレスデンの中心地にある美術館「アルバーティナム」。18〜19世紀の希少な美術品を収蔵する重厚なルネッサンス様式の建物の1階にある大広間が巨大な特設ディナー会場になっていた!


世界いち美しいメカニカル・クロノだ!


最高の素材、最高の技術、そして最高の仕上げ――
3つの“最高”を組み合わせると、
時計はA.ランゲ&ゾーネのようになるのかもしれない。
エンジン時計班にそんな思いを持たせるに十分な
美しき円熟のクロノグラフが、さらなる高みを目指した!
文=中村光宏(本誌) 写真=A.ランゲ&ゾーネ


 2011年12月7日、初めて降り立つドイツ・ザクセン州ドレスデンの町は重い雲が立ち込め、今にも空が泣き出しそうだった。それに信じられないほど寒い! 迎えの運転手が、「今年は降っても雨。雪じゃ無いだけ、まだ暖かい」と言った。それでも目を凝らせば遠くの山は皆すっぽりと綿帽子をかぶっている。白い山並みから下りてくるシンと冷え切った空気は、冬の間、家に籠って時計を作り続けるしかなかった古の時計師たちの姿を連想させた。


ドイツ時計の聖地
 ドレスデンからクルマで40分ほどの渓谷にある小さな町、グラスヒュッテにはドイツ時計メーカーがひしめきあっている。いや、ほとんどのドイツ時計は、この町で生産されていると言っても過言ではない。そんなドイツ時計の聖地にある時計工房の中で、頂点に君臨するのが1845年創業のA.ランゲ&ゾーネだ。ドイツは第2次世界大戦の際、そのA.ランゲ&ゾーネを含む各地のすべての時計メーカーを接収した。グラスヒュッテに集められた各社は、1つの巨大国営軍需企業となっていた悲しい過去を持つ。以降、東西ドイツが再びひとつになるまで東ドイツだった同地で、世界最高水準の性能を誇るドイツ車同様、高精度と高い信頼性で人気を博したドイツ時計ブランドが復活することはなかった。
 1990年、2つのドイツを分けていた壁が崩れる。それを機に、A.ランゲ&ゾーネは復活を遂げた。それから22年、同社はかつての時計づくりに忠実に、グラスヒュッテの地で精緻な最高級時計のみを熟練職人が手作りしている。
A.ランゲ&ゾーネの工房の外観
A.ランゲ&ゾーネの工房の外観。周囲との調和が考えられたクラシックな建物の中は大きな工房になっており、最新の時計製作機器が並ぶ。

 A.ランゲ&ゾーネは自社一貫生産を基本とするトゥルー・マニュファクチャラーだ。ムーブメントのパーツからそれを製造するための工具に至るまでを自社内で作っている。それらパーツの生産工程の一部には最新式の工作機械を導入しているが、時計を組み上げ、仕上げのエングレーブを施す最終的な工程は、各々時計師、彫金師が1人で受け持つ。
A.ランゲ&ゾーネの時計の最終組み上げ工程
クリックすると拡大
A.ランゲ&ゾーネの時計の最終組み上げ工程は、すべて1人の時計師によって最後まで行われる。厳密な精度チェックの後に、同社の時計の魅力のひとつである美しいエングレービングが彫金師の手により施されたパーツが、熟練時計師の手で1つ1つ組み込まれてゆく。


 奇抜なデザインの工房が競い合うスイス時計産業の聖地、ラ・ショー・ド・フォンとは異なり、町に調和するように建てられたクラシックな外観の工房を入ると、そこでは創業時と同じではなかろうかと思えるクラシックなスタイルで、1本1本の時計が時計師の手でじっくりと丁寧に組み上げられていた。なかでも一番驚いたのは2度組みと呼ばれるシステムだ。A.ランゲ&ゾーネの時計はすべて、一度組み上げられ、徹底した精度チェックを受けた後に完全に分解、再調整され、仕上げが施されて再び組み上げられ完成する。つまり2本の時計を組み上げられる時間と労力を、1本の時計に注いでいるのだ。この徹底した品質管理こそA.ランゲ&ゾーネが世界最高峰と呼ばれる由縁だ。そのシステムはいかにもドイツ的、であると同時に最高峰の機械式時計メーカーとしての自負と確固たる信念を感じさせる。


最新作は熟成版

 2011年1月、そんなA.ランゲ&ゾーネに新たにCEOとしてヴィルヘルム・シュミット氏が着任した。聞けば彼の前職は、なんとBMW。先進的なドイツ車の中でももっともモダンなBMWの、南アフリカのトップを務め上げ、ドイツ時計の最高峰ブランドにやってきたのだ。
 そんな彼の記念すべき第1作として発表された最新作が「ダトグラフUP/DOWN」だ。ベースとなる「ダトグラフ」は、時計に興味が無い人が見ても美しいと感じるであろう複雑なムーブメントを持つ手巻き式のフライバック・クロノグラフ。シースルーの裏蓋から見る限り、そのムーブメントは完成されていて、とても手を入れる余地はないように思える。が、しかしA.ランゲ&ゾーネの技術陣はそんな「ダトグラフ」に手を加え、パワーリザーブ表示を付加することに成功した。文字盤の6時位置に置かれたその表示は三角形がプリントされた小さな円形のディスクによる。その遊び心を感じるデザインは、質実剛健な「ダトグラフ」の表情に華を添えることにも一役買っている。手巻き式必須の実用機能でありながらどこか愛らしい。
 ケースサイズも変更されている。従来の「ダトグラフ」が直径39mmなのに対し、この新作は41mm。自らのアイデンティティはそのままに、大型化されモダンになった。「ダトグラフ UP/DOWN」を見ていると、同様に“アイデンティティ”を大切にしながらも常にイノベーティブで、乗る者に新鮮な感動を与え続けるBMWのクルマたちが心の中で重なる。新CEOは、A.ランゲ&ゾーネという伝統あるドイツ高級時計ブランドに新風を送り込んだ。これからのA.ランゲ&ゾーネ、楽しみである。

ヴィルヘルム・シュミットCEO
ヴィルヘルム・シュミットCEOは「A.ランゲ&ゾーネの伝統を大切する」と話すが、彼がランゲに新風を吹き込んだことは想像に難くない。
(写真左)1990年のA.ランゲ&ゾーネ復興のために奔走し、みごと再生した同社を現在に導いたキー・パーソンが、創業者フェルディナンド・アドルフ・ランゲから数えて4代目に当たるウォルター・ランゲ氏。現在は名誉会長を務める。
(写真右)A.ランゲ&ゾーネの時計を語る上で忘れてはならないのが全製品を「2度組み」するという、完璧を期すシステム。工房内でも、2度にわたる精度チェックのための人員と作業スペースがとりわけ大きく割かれているのも印象的だった。





The most Mechanical &
The most Beautiful
Chronograph, DEBUT!


クリックすると拡大
ダトグラフ UP/DOWN

1999年にデビューし、大型日付表示を配した均整のとれた独特なダイアル・レイアウトやジャンピング・ミニッツカウンター、フライバックなどの高度な複雑機構で時計好きの話題をさらった「ダトグラフ」にパワーリザーブ表示を付加。香箱を大型化したことでパワーリザーブも従来モデル比24時間延び、60時間となっている。
手巻き。プラチナ。ケース直径41mm。756万円(予価)。





※価格は雑誌掲載当時のものです。

2012年3月号掲載


 
 
最新記事一覧
Driving Lesson
エンジン・ドライビング・レッスン
「エンジン・ドライビング・レッスン2017」の受講生募集を開始します。今年の開催は全3回…
ENGINE ROOM
エンジン・ドライビング…
エンジン・ドライビング・レッスン2019 受講生募集開始!!
ENGINE ROOM
ENGINE 2019年4月号
自動車用品からファッション、時計まで、ENGINE読者必見の新製品、新店舗、イベントなど耳より情報が…
NEWS
PSAのクルマ造りについて…
018年のパリ・モーターショウでドイツ・プレミアム御三家とともに多くのニューモデルを出展し、地元の…
NEWS
2019年から3ブランドで…
2018年のパリ・ショウで多くの電動化モデルを見せてきたPSA。その背景にはどのような問題が隠れている…
NEWS
ENGINE beat Music 2018…
ABBAのカバー・アルバムを発表したシェールと、トランプ政権を批判するアルバム『Walls』(壁)を作っ…
NEWS
ENGINE beat TRAVEL 2019…
10月に京都に開業した『ENSO ANGO』はコンセプトの異なる5つの棟で成り立つホテル。新しい発想で、京…
NEWS
レディー・ガガが映画に…
ポップス界のスーパースター、レディー・ガガが初主演した映画が、全米で大旋風を巻き起こしている。…
ENGINE ROOM
ENGINE 2019年4月号
今年もやりました! エンジン大試乗会!! 最新輸入車39台、ジャーナリスト28人が大集合。



バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



▼時計 最新5件
 CARL F. BUCHERER/カール F. ブヘラ
 PATEK PHILIPPE/パテック フィリップ
 BLANCPAIN/ブランパン
 ROLEX/ロレックス
 GRAFF/グラフ