ENGINE online/エンジン オンライン

スーパーセダンの官能:マゼラーティ・クワトロポルテATvsアウディ S8


MASERATI QUATTROPORTE AT/AUDI S8
クリックすると拡大
AUDI S8
メルセデス・ベンツSクラスやBMW7シリーズに対抗すべく、最上級の大型サルーンとしてA8シリーズが登場したのは1994年のこと。2002年にデビューした2代目をベースにした高性能ヴァージョンの現行S8は2005年秋のパリ・サロンでヴェールを脱いだ。ことしから日本に輸入されている。


MASERATI QUATTROPORTE AT
ピニンファリーナによる個性的なスタイリングをまとった新時代の4ドア・マゼラーティとして2003年に登場。ことしになってあらたに6段ATを搭載したヴァージョン、“オートマティック”が加わった。セミAT+トランスアクスルの従来からの“デュオ・セレクト”シリーズは、ATと並存する。




深いイタリアと、透明なドイツ。


1500万円級にして、400馬力超のスーパー・サルーンは、近ごろの流行だ。
イタリア代表は名門スーパーカー・ブランドのマゼラーティから、クワトロポルテAT。
ドイツ代表はスター街道驀進中のアウディから、シャキッとスポーティなS8。どっちの官能がどうなのか? 本誌編集長がテストした。
文=鈴木正文(本誌) 写真=小野一秋



ショックをおぼえる

 軽く狼狽をおぼえるほどのショックがあった。バイエルンのライジング・スター、アウディの最高性能サルーンであるS8への、賞讃の念の高まりのあまりに。最初にS8に乗ったのは、モデナの波打つような官能的ブランド、マゼラーティのクワトロポルテ・オートマチックの後では、きっと味けなさが身にしみてしまうだろう、とおもったからだ。
 S8がその存在感、操縦感すべてをふくめて、クワトロポルテATよりずっと軽いクルマだろうということは予想できた。アウディにおける「S」バッジのモデルは、スポーティさを強調したシリーズとして、「A」ではじまる通常モデルより、エッジの鋭い仕立てになるはずだからだ。A8はとても軽やかなクルマだから、きっとSもまた軽やかだろうと予想してはいた。しかし、そんな生やさしいレベルではなかった。
MASERATI QUATTROPORTE AT
クリックすると拡大
もともとフロント・ミドシップだがATがエンジン直後に搭載されるようになったため、エンジンをさらに9mm後に押しやっている。
 イメージとしては、大地の呪縛から逃れられない4本足のクルマというよりも、サラリと重力をかわして青空を自在に泳ぐグライダーのような、そんな無重量感がS8にはあった。肉体が重さを失い、こころのオリも振るい落とされて、存在そのものが透明になっていくような快感が訪れるのだった。これがドイツ車か! 質実剛健一本やりなのがドイツ車とかんがえていた向きは、きっとそう叫ぶだろう。
 とはいえ、S8はV10を積む全長5メートル強の4ドア車だから、いかに軽量アルミによるスペースフレーム構造をとるボディを持つとはいえ、重量は2060kgにもなる。いっぽう、クワトロポルテATは、S8とほぼおなじ全長だが、S8より2気筒少ないV8を搭載し、S8より駆動機構がシンプルな後2輪駆動車だからもっと軽くてもいいのに、ボディがふつうのスティール・モノコック製だからか、車検証上は2070kgと、重量ではS8と同等になってしまっている。
MASERATI QUATTROPORTE AT
(写真上)針だけが赤だが、盤面は目の疲れないグリーンの優しい照明。
(写真下)電動シートが標準の快適でルーミーなリア・コンパートメント。
ディープ・イタリア

 S8がほとんど透明なまでに物質感を持たないとすれば、クワトロポルテATは反対に物質感の権化である。それはディープ・イタリアの手ごたえともいえる感覚だ。ここでいう「ディープ」の語感は、アメリカの、閉鎖的で保守的な南部諸州を意味する「ディープ・サウス」のそれに近い。いわば、時代の移ろいに動かされない古層の手ごたえ。
 アメリカならそれは、プロテスタント的原理主義や人種差別的傾向や濃密な共同体性といった、南部人たちに肉体化された体臭のようなイデオロギー性を想起させるが、クワトロポルテATに乗っていると、うっかりするとローマ時代につくられたタイルを床に敷いた数百年前に建った屋敷に住みながら、現代の快適性を適度に享受できる改造された内部環境に暮らし、ピカピカの靴を履いて、完璧なスーツをエレガントに着こなし、踊るように歩きかつ歌うように話すリッチでコンサバなイタリア男の姿が浮かんでくる。ついでにいえば、かれはきっと、いくつもの数世代前の肖像画が壁面を埋め、数世代前から受け継いだ家具と書庫のカビくさい匂いがどこからともなくただよってくるホールをこよなく愛するいっぽうで、同時にビル・ゲイツがどんなスーパー・ハイテクの大型クルーザーを買ったのか、ということにも興味津々な、そんな男にちがいない――というイメージだ。
MASERATI QUATTROPORTE AT
クリックすると拡大
MASERATI QUATTROPORTE AT
エンジン フェラーリと血を分けた4.2リッターV8は、ATと結婚させられて、セミAT時代ほど存在を主張しないが、トップ・エンドで上げるかん高いむせび声は泣ける。

トランスミッション
ZF製の6ATはすこぶるスムーズで、批判はまったくないが、クワトロポルテの性格をマイルド化するうえで決定的な役割をにない、何より静粛性を向上させた。

ブレーキ
2070kgのヘヴィ・ウェイトを制動すべく、フロント33cm、リア31.6cmのブレンボ製大径ブレーキを備えるが、酷使を続けると重さに耐えかねるときもある。

ハンドリング
AT化によって前荷重がわずかに増えてマイルド化したとはいえ、依然、大型サルーンとして異例の俊敏性を維持しており、このクルマの最大の魅力を提供する。

サウンド
エンジン音、排気音、ロード・ノイズすべてが、高級大型サルーンの静粛性のスタンダードに近づいた。かすかに聞こえるフェラーリ・ハミングはボーナス。

乗り心地
セミATモデルよりマイルドなチューンを受けたスカイフック・サスペンションにより、乗り心地は大きく向上した。ただし、ボディはライバルたちよりゆるい。

主要諸元
5060×1895×1440mm ホイールベース=3065mm 2070kg 90度V8縦置き後輪駆動 4244cc(92×79.8mm) 401ps/7100rpm 47kgm/4250rpm 1414万円



MASERATI QUATTROPORTE AT
(左)かつてのマゼラーティから引用したフェンダーの排熱孔。(中)径の異なるダブル・エキゾーストは音を調律するため。(右)Pゼロ・ロッソを履く19インチ・アロイはオプション。


前のページ
1
2
3
次のページ



page1 深いイタリアと、透明なドイツ。
page2 冷徹、清潔、シンプル
page3 だれをも魅了する

 
 
最新記事一覧
Driving Lesson
エンジン・ドライビング・レッスン
「エンジン・ドライビング・レッスン2017」の受講生募集を開始します。今年の開催は全3回…
ENGINE ROOM
エンジン・ドライビング…
エンジン・ドライビング・レッスン2019 受講生募集開始!!
ENGINE ROOM
ENGINE 2019年4月号
自動車用品からファッション、時計まで、ENGINE読者必見の新製品、新店舗、イベントなど耳より情報が…
NEWS
PSAのクルマ造りについて…
018年のパリ・モーターショウでドイツ・プレミアム御三家とともに多くのニューモデルを出展し、地元の…
NEWS
2019年から3ブランドで…
2018年のパリ・ショウで多くの電動化モデルを見せてきたPSA。その背景にはどのような問題が隠れている…
NEWS
ENGINE beat Music 2018…
ABBAのカバー・アルバムを発表したシェールと、トランプ政権を批判するアルバム『Walls』(壁)を作っ…
NEWS
ENGINE beat TRAVEL 2019…
10月に京都に開業した『ENSO ANGO』はコンセプトの異なる5つの棟で成り立つホテル。新しい発想で、京…
NEWS
レディー・ガガが映画に…
ポップス界のスーパースター、レディー・ガガが初主演した映画が、全米で大旋風を巻き起こしている。…
ENGINE ROOM
ENGINE 2019年4月号
今年もやりました! エンジン大試乗会!! 最新輸入車39台、ジャーナリスト28人が大集合。



バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



▼クルマの取材ストーリー 最新5件
 作家、真山仁、F1シンガポール・グランプリを見に行く。
 マクラーレンが放った久々のロード・カー、MP4-12Cに英国・ダンスフォールドで乗る。
 ベントレー・コンチネンタルGT&GTCに加わったV8モデルに英国の本拠地、クルーで乗る。
 ベントレー・コンチネンタル・フライングスパー・スピードとジャガーXJスーパースポーツ
 アウディS4 と ポルシェ・パナメーラ4S