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カリフォルニアの青い空の下で、最新のポルシェ911に乗った!


PORSCHE 911 CARRERA S/ポルシェ911カレラSクーペ
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PORSCHE 911 CARRERA S/ポルシェ911カレラSクーペ

PORSCHE

想像以上の大進化があった!


ついに、待望の新型ポルシェ911、コードネーム991型に
乗れる日がやってきた。1963年のデビュー以来、長きにわたって使ってきた
スチール製ボディを捨て、アルミ/スチール製のハイブリッド・ボディを採用しつつ、
アイドリング・ストップなどエコ機能をも充実させた最新型はやはり最良なのか。
米カリフォルニア州サンタ・バーバラで開かれた国際試乗会から報告する。
文=村上 政(本誌) 写真=ポルシェ・ジャパン/ポルシェAG



「新世代のポルシェ911カレラは、この伝統あるスポーツカーの長い歴史の中でも最大の進化を経て姿を現しました」。新型911がデビューした2011年9月のフランクフルト・ショウで配られたプレス資料は、こう書き出して、全コンポーネントの約90%の設計が見直されるか、再開発されたことを明かしていた。
 かつて空冷から水冷へ、すなわち993型から996型へと生まれ変わった時でもホイールベースの拡大幅は78mmだったのに対し、今回の997型から991型への世代交代では一気に100mmも拡大しているのだから、それだけをとっても変化の大きさは想像に難くはない。
 加えて991型では、これまで頑にこだわっているかに思われたスチール製ボディをあっさりと捨て、私の知る限りではポルシェのエンジニアの口から否定的な意見が出ることの多かったアルミニウムを約半分使った、アルミ/スチール製のハイブリッド・ボディを採用しているのだ。
 いったいどんな新世代スポーツカーに仕上がっているのか。いちポルシェ好きとして、これほど待ち焦がれた試乗会はなかった。
PORSCHE 911 CARRERA S
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PORSCHE 911 CARRERA S/ポルシェ911カレラSクーペ
 そしてついに、その991型に乗る機会を得て、結論から言ってしまえば、想像を遥かに超える大進化を遂げていたことに衝撃を受けた。過去に911に乗った経験のある人なら誰が乗っても、ほんの数メートル走らせれば、997のみならず歴代のすべての911のどれともまるで違う、と断言するであろうほどの大きな乗り味の違いがある。
 しかしながら、それでいて乗れば乗るほど、やっぱりこれは紛れもなくポルシェ911だ、という想いもムクムクと頭をもたげてくるのだから、コトはそう単純でない。
 果たしてどこまでうまく、そのニュアンスを伝えられるか。極力ありのままに、見て、触って、乗った感想を記していくことにしよう。


旧型より大きく見える理由

 ポルシェの最大のマーケットのひとつである米カリフォルニア州のサンタ・バーバラで開かれた今回の国際試乗会に用意されていたのは、7段PDKと新開発の7段MTの2種類のトランスミッションを積んだカレラSだけだった。なぜカレラSだけなのか、正確な理由は掴めなかったが、どうやらシュトゥットガルトのポルシェ本社工場で最初につくられているのはカレラSだけで、カレラは少し遅れて生産ラインに載せられるというのがその理由らしい。
 それはともかく、9月にヴァイザッハのポルシェ研究開発センターで見て以来2度目の対面となる新型911は、広大なアメリカの大地の上で見ても、旧型より大きくなったように見えた。実際のボディ・サイズは全長こそ56mm増えているものの、全幅は同じで、全高に至っては6mm低くなっている。にもかかわらず大きく見えるのは、フロントのトレッドが52mm拡がったのが原因だろう。そのために両眼のあいだが離れて、顔が大きくなったように感じられるのだ。またホイールベースが伸びたことでボディ中央部のくびれが減り、少し寸胴になったようにも見える。
チーフ・デザイナーのマイケル・マウアー氏のデザインの特徴
チーフ・デザイナーのマイケル・マウアー氏のデザインの特徴は、なによりも繊細なことだ。細部に至るまで潔癖症ではないかと思えるほどに神経が行き届いている。テール・ランプの造形の美しさは絶品だと思う。
 それでも、新型が美しく見えるのは、チーフ・デザイナーであるマイケル・マウアー氏の手による繊細きわまりないデザインに負うところが大きいように思う。
フロントで特徴的なのは左右のエア・インテークの上に少しズレるようにして置かれたデイタイム・ライトの形状だが、この微妙なズレ方には、相当なこだわりが感じられる。リア・スタイルも肉感的なお尻の迫力が薄れたかわりに、すっきりとした清潔感あふれる美しさが際立っている。かつての928に、ちょっと似ていると思った。
 アルミ製になったことで軽くなったドアを開け、運転席に乗り込むと、これまでより着座位置が若干低いと感じた。
荷室の容量は旧型と同じ135リッター
荷室の容量は旧型と同じ135リッター。この大きさを確保しつつ20インチ・タイヤを履くためにフロントのトレッドを52mm拡げることになったというのが、ポルシェ側の説明だ。
シートレールを13mm下げたのだという。クルマ全体の重心も5mm下がっている。室内幅もタイトになったと感じたが、これは旧型と寸分違わないのだとか。どうやらセンターコンソールがカレラGTのようなせり上がった形状になったことが、タイト感を醸しだしているらしい。
 5連メーターを中心としたコクピットのデザインは旧型と同じ。しかし、前方に拡がる風景はこれまでと少し違っている。ダッシュボード上部の面積が広くなり、フロント・ガラスがかなり前進した。Aピラーの位置は同じだが、ガラスをラウンドさせて寝かせてあるのだ。そのため、これまでの911より、むしろパナメーラにやや近い印象を受ける。
ドア・ミラーの取り付け位置は
ドア・ミラーの取り付け位置はウインドウ前端の三角スペースからドア上端へと変更された。気流を最適化し、風切り音を大幅に低減すると同時に、ついに電動格納機能がオプション装備された。

 ホイールベースを100mm伸ばした理由は、走行安定性やダイナミック性能、荷重変化などの理想値をコンピューターではじき出した結果だという。すなわち、はじめに100mmという数字があって、それを実現するために前軸を30mm前に出し、後軸を70mm後ろに下げた。ボディ全長に対するドライバーの位置は旧型とほぼ同じで、エンジンの搭載位置も変わっていない。後軸のみが下がったたためドライブ・シャフトは少し後傾して取り付けられているという。


リアに入るロゴ
リア・リッドを開けても
リアに入るロゴは試乗車によってマチマチだったが、どうやら、“PORSCHE 911 CarreraS”の全部入りが標準で、そこからレス・オプションで減らしていくということになるらしい。


リア・リッドを開けても、そこに見えるのは冷却用のファンのみ。911のフラット6は48年の歴史を経て、ついにまったく見えなくなってしまったのだ。



パナメーラのようなフラット感

 最初に乗ったのは7段MT仕様。左手でキイを回してエンジンに火を入れると、すぐに乾いた、やや荒々しいボクサー・サウンドが室内に飛び込んできた。サウンド・チューニングには、かなり気合が入っている。
 ステアリングからの距離が近づき、操作しやすくなったシフト・ノブを1速に入れてスタートする。適度な重さを伴ってスッと入るシフト感は相変わらず抜群だ。ちなみに、新しい7速ギアは、かなり外側に切られており、入れる時にパッセンジャーの左膝に手が触れそうになるほどだ。
 走り始めて驚いたのは、とにかくすべての動きがスムーズこの上ないことだった。フツウに走っている限り、ギクシャク感や荒っぽさは微塵も感じられない。室内は極めて静かで、ロードノイズも風切り音もミニマム。エンジンの素晴らしくいい音だけが後方から聞こえてくる。
 乗り心地も極めて良い。よく足が動いている感じで、姿勢は常にフラット。あまりの快適さに、あたかもパナメーラに乗っているかのような錯覚さえ受ける。これまでの911と決定的に違っているのは、まるで金庫の中にいるような独特の重厚感がなくなったことだ。岩盤のように固いフロアを持ち、路面の荒れをドシン、ズシンと押さえつけるようにして走る、あの感じも完全に消えた。
 新しい991は動き出しから軽快そのものだ。ボディ全体が軽さを主張している感じで、走っていても常に軽快感が支配している。ボディ剛性の高さは感じられるが、これまでのスチールのしっとりとした粘りのある剛性感とは違い、もっとドライで、少しキンキンした感じ。細かく震える振動の感覚は、もう完全にアルミ・ボディのクルマと変わらない。 足がしなやかに動くことで、その振動をうまく吸収している。可変ダンパーのPASMはセンサーが大幅に増えたことで、細かな制御をこなす能力が大幅に向上したのだという。
 新開発の電動パワー・ステアリングは、発進時こそあまりの軽さに戸惑ったが、スピードを出すとすぐに適度な重さへと変化し、そのあとはまったく違和感がなくなった。意識すると状況に応じてかなり重さが変わっているのがわかるが、しっとりしたステアリング・フィールは、これまで以上と言ってもいいレベルだ。

内装で特徴的なのは
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内装で特徴的なのは、ダッシュボード上のスペースが旧型よりずっと広くなったことと、センターコンソールがカレラGTのように前方に向かって高くせり上がっていくような形状になったことだ。中央に回転計を据えた5連メーターは不変だが、右から2番目が液晶パネルになった。7段MTのシフト・ノブはステアリング・ホイールに近い位置にあり使いやすい。


後ろシート
センターコンソールが
前後シートの形状は基本的に旧型と同じだが、スペースには若干の変更があった。まず、ルーフが6mm低くなっているが、着座位置も13mm低くなっているため、ヘッド・ルームはわずかに増えた。とりわけ、サンルーフ装着車では15mm広くなった。レッグ・ルームはフロントが25mm(ペダルが5mm前進、シート・レールを後ろに20mm延長)、リアが7mm増えている。



機械としては間違いなく最良

 とにかく、速い。眉毛ひとつ動かすことなく信じられないような高速走行をこなすような、そんな速さだ。許容回転数が300rpmアップして、7800rpmとなった直噴フラット6は、回すほどにパワーと音が炸裂して気持ちいいことこの上ない。にもかかわらず中低速トルクもたっぷりと太く、どこから踏んでも速いのだから、もはや文句のつけようがない。
 ただし、とりわけ後に乗ったPDKモデルで強く感じたのは、ノーマル・モードだと常に省燃費走行をするように躾けられており、いささかもどかしい感じがすることだ。ギアはどんどん上げてしまうし、巡航状態に入ってアクセレレーターを戻せば、すかさずクラッチを切ってアイドリング状態まで回転数を落とす新しいコースティング機能が作動する。停止時には、1秒たつとアイドリング・ストップ機構が作動して、エンジンを停止させる。どちらも良くできていて、移行時に違和感を感じさせることはないが、それでも歯がゆさは残る。MTでもPDKでも7速は完全な燃費ギアで、正直言ってあまり積極的に使いたいとは思わない。スポーツカーが走りを積極的に楽しむための乗り物だとしたら、スポーツ・モードこそ本来の姿だと思わざるを得なかった。スポーツでは新開発のサウンド・シンポーザーが作動し、より増幅された迫力あるエンジン音を室内に響き渡らせる一方、アクセレレーターのピックアップは鋭さを増し、ダンパーは締め上げられて、いかにもスポーツカー然としてくるが、それでも20インチの極太タイヤを履きながら乗り心地は一向に悪くならない。最大16%の燃費向上を果たしたことより、その驚異的な快適性の方が私には衝撃的だった。
特設パイロン・コースで限界性能を試す
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特設パイロン・コースで限界性能を試す。可変スタビライザーを使ったPDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール)の効果は絶大で、ほとんどロールは感じられない。
 飛行場に特設されたパイロン・コースでは、さらにスポーティな設定のスポーツ・プラスで限界走行を試した。ロウンチ・コントロールを使った発進も全開加速も、フルブレーキングも完璧としか言いようがなかったが、とりわけ感心したのは、やはり新開発のオプション装備であるアクティブ・スタビライザーのPDCCの威力で、どんなコーナーでもほとんどロールを感じさせることなく駆け抜けてしまう。あまりに凄すぎて、呆気にとられるほどだった。
 果たして最新は最良だったか、と問われれば、答えは明確。間違いなく機械として最良であるに違いない。 しかし、さらに911として最良だったかと畳みかけられると、正直なところ答えに躊躇する。なぜなら、これまで私が知っている911とは明確に乗り味が違っていたからだ。
 午後の試乗コースに、一カ所だけまるでラリー・コースのようなワインディングが続く山道があった。しかも砂が浮いていて滑りやすいことこの上ない。スポーツ・プラスで少しお尻を滑らせながらその山道を走っている時が、今回の試乗会で一番楽しい至福の時だった。ブレーキングでフロントに荷重を移し、スッとノーズを入れたら、あとはイーブン・スロットルでコーナーを舐め、脱出でドンと後ろからものすごいトルクで押し出されるように加速していく独特の走りは、紛れもなく911のものだ。乗り味は変わってもハンドリング特性は不変。となると、やはり911としても最良なのか――私はまだ結論を出せないでいる。


乗り味は変わった
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乗り味は変わった。しかし、独特のトラクションの快感は変わらない。

  
 ポルシェ911カレラSクーペ
駆動方式エンジン・リア縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高4491×1808×1295mm
ホイールベース2450mm
車両重量1395kg(MT)/1415kg(PDK)
エンジン形式アルミ製直噴水平対向6気筒DOHC24バルブ
排気量3800cc
ボア×ストローク102×77.5mm
最高出力400ps/7400rpm
最大トルク44.9kgm/5600rpm
トランスミッション7段MT/7段PDK
サスペンション(前)マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後)マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後)通気冷却式ディスク
タイヤ(前)245/35ZR20、(後)295/30ZR20
車両本体価格1381万円(MT)/1456万円(PDK)




(2012年2月号掲載)
 
 
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バックナンバーページの定価表記について
「ENGINE 2014年3月号」以前の定価表記は、発売時の定価になっております。
予めご了承くださいますようお願い申しあげます。



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