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クワトロポルテ・スポーツGT Sの“S”には大きな意味がある。


QUATTROPORTE Automatic GT S/クワトロポルテ スポーツ GT S
昨年の6月に日本へやってきたクワトロポルテ・オートマティックは、そのまま乗り逃げしてしまいたくなるようなクルマだった。


どっちも欲しくなっちゃう。


オートマティック・トランスミッションとそれに合わせて仕立てられた穏やかな脚で、
ひときわ魅力的なフルサイズ・ラグジュアリー・サルーンとなったクワトロポルテ。ところが、
マゼラーティはその魅力をさらに深く引き出すことに成功してしまった。シリーズにこの春、
加わったスポーツGT Sは、ベスト・クワトロポルテである。
文=齋藤浩之(本誌) 写真=小野一秋


QUATTROPORTE Automatic GT S/クワトロポルテ スポーツ GT S
ゆったりと深いロールを伴いながらそれでも侮れない速度でコーナーの連続をクリアするオートマティック。柔らかく、そして優しい。
 昨年の6月に日本へやってきたクワトロポルテ・オートマティックは、そのまま乗り逃げしてしまいたくなるようなクルマだった。
 ドライ・サンプ式からウェット・サンプ式に変更されたV8エンジンは、別体タンクへオイルを吸い戻すためのスカベンジ・ポンプを排除できたことで、機械ノイズが減り、燃焼音とよく調律されたエグゾースト・ノートを、まるでバックグラウンド・ミュージックのように楽しむことができるようになった。
 さらに、それまでクワトロポルテでは唯一の選択肢だったロボタイズドMTベースのセミATからZF製の6段ATに置き換えられた変速機は、これ以上ない滑らかな変速マナーを実現して、乗りやすさをほとんどフールプルーフといいたいほどにまで高めていた。一所懸命運転しなくてはいけない大げさ感がすっきりとそぎ落とされたクルマになっていたのである。トルクコンバーター付きATのありがたさをこの時ほど強く感じたことはない。
 それでいて、ハンドリング性能はセミATのデュオセレクトと性格こそ違えど、ほかではありえない種類の麗しいものだった。まるで巨大なミズスマシのようにアスファルトの上を泳ぐクルマではもはやなくなっていたが、反対にゆったりと深いロールを許し、しなやかに路面を舐めていくオートマティックは、僕にとってはむしろ圧倒的に好きなタイプのそれだった。フルサイズ・サルーンの理想が突然目の前に現れて、どうやっても買えない現実にため息をついたのを覚えている。
左がオートマティック。右がオートマティック・スポーツGT S
左がオートマティック。右がオートマティック・スポーツGT S。まるで違う世界がそこに待ち受けている。カラー・コーディネイトは好みによって幾通りものなかから選べる。



スポーツGT S登場

 クワトロポルテ・オートマティックは早速欲しいクルマ・リストに組み込まれたわけだけれど、早春2月にJAIA(日本自動車輸入組合)の試乗会で、上陸したばかりのGT Sに乗って唖然とした。正式な名称はクワトロポルテ・オートマティック・スポーツGT S。すでにカタログにラインナップされていたスポーツGTに毛が生えたぐらいかなという予想を呆気なく覆す、それはそれは素晴らしいクルマだったのだ。
 仕立てはこうだ。ブルーヘッドの4244ccV8エンジンやそのクランクシャフト後端に直付けされる6段ATはそのまま。つまり、パワートレインはスタンダードのオートマティックに同じ。ただし、エンド・マフラーが専用のものに変更されて、より大らかに歌うようになっている。
 大きく違うのはサスペンションだ。バネ・レートは前後ともに引き上げられて、それにともなってライド・ハイトがフロントで10mm、リアで25mm下がっている。ダンパーも専用で、減衰力が大幅に引き上げられている。これは電子制御の減衰力可変式のものではなく、特性を固定したシングル・レートのものだ。脚を締め上げたうえでシューズも履き替えている。コンパウンドと内部構造はGT S専用にタイヤ・メーカーと共同開発したものという。サイズも変更され、前はスポーツGTと同じ245/35ZR20のままだが、駆動輪のそれは1セクション太くなって295/30ZR20になっている。
 車輌重量は標準で2050kg。サンルーフを加えると2070kgに達するスポーツGT Sは、AT仕様だからトランス・アクスル方式ではないけれど、完全なフロント・ミドシップのレイアウトが十全に活かされて、静止状態でも後輪に51%の荷重が掛かっている。1輪当たり優に500kgを超える静的荷重がかかる。発進フル加速ともなれば、さらにグッと増えるのだから、295という幅をもって過剰ということには全然ならない、これはコスメ・チューンではない。専用シャシーは姿勢制御能力やトラクション性能の引き上げだけを果たしているわけではない。ブレーキも変更され、フロント側の容量アップが実現されている。しかもバネ下重量増がほとんどなしでだ。
身を引き締めたままじわじわとロールを許すGT Sの絶妙なセッティング
身を引き締めたままじわじわとロールを許すGT Sの絶妙なセッティング。バウンド・ストロークが短い分、最終ロール角は少し小さい。
 ブレンボ社と共同開発された新しいローターは、デュアル・キャスト・ディスクと呼ばれるもので、摺動部分には従来どおり鋳鉄を使うものの、それと一体鋳造されるハブ接合部はアルミ軽合金製となっている。これによって重量の削減と放熱効果の向上を果たす。アルミは鉄に比べて2割ほど軽いことが活きるわけだ。その削減分をローター径拡大に充てている。ほかのクワトロポルテに使われている全鋳鉄製ディスクの直径はφ330mm(17インチ相当)だが、スポーツGT S用のこれはφ360mm(18インチ相当)となっている。摺動部面積は大幅に増えていても、ローター単体重量はほぼ同じという。
 もちろん、炭素繊維複合素材を使えばローターはずっと軽くできるが、製造コストは桁が違うほど高価になるし、扱いにも注意が必要となってくる場合が少なくない。
フロント・バルクヘッドにもぐり込むようにして低く奥深く搭載されているブルーヘッドの4.2リッターV8
フロント・バルクヘッドにもぐり込むようにして低く奥深く搭載されているブルーヘッドの4.2リッターV8。ウェットサンプといっても、サンプ形状は巧みで、浅い。エンジン搭載高はドライ式並み。
ラグジュアリー・サルーンでもあるクワトロポルテのようなクルマの場合は、作動音の処理も難しくなる。そういう新たなネガを抱え込むことなく、大幅な容量アップを実現する新技術なのだ、これは。デュアル・キャスト・ディスクの採用に合わせて、キャリパーの容量も拡大されている。アルミ・モノブロック構造の固定式キャリパーは3組(φ30mm、φ34mm、φ36mm)の対向ピストン・セットを内蔵する6ポット式の強力なものだ。


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