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from EDITOR|ENGINE 2010.10 No.121


 7月末に総務省が発表した全国消費実態調査によると、1000世帯あたりの自動車所有台数が昨年、減少に転じた。1964年に自動車部門を同調査に加えて以来、はじめての減少で、昨年9月から11月にかけて、全国から抽出した5万2000世帯を対象に調べたところ、1000世帯当たりの所有台数は、前回2004年のときより2.2%少ない1414台だったという。前回よりも軽自動車は増加したが、普通自動車の台数がそれより激しく落ち込んだ。年代別にも、50歳代以下のすべての年代で自動車所有が減っており、とくに40歳代と30歳未満の年代では、6%以上の大幅減になったという。いまの社会を先頭で担っている主力年代に、クルマを積極的に持たない人が増えている、ということになる。総務省は「若年層のクルマ離れの傾向が顕著だ」というコメントも出しているから、日本の自動車所有台数は、これから漸減していく傾向に入っていくことになる、と見て間違いないだろう。
 いっぽう、視野を世界にひろげると、自動車は増えつづけていて、2000年には7億5000万台と推定されていたものが、2005年には9億台弱に増えた、と見られている(日本自動車工業会調べ)。この増加を牽引しているのは、期間中に保有台数を年率21.2%も伸ばした中国や17.8%増やしたインドで、ブラジル、メキシコ、韓国、ポーランドも年率5%を上回る高成長を記録したという。いま経済がダイナミックに動いているところで、自動車保有が増えているわけだ。
 この国では人口も減少局面に入っている。さらに、高齢化が急速に進行し、少子化の流れも止まっていない。また、過去20年ほどのあいだに劇的に進んだ所得格差の拡大と低所得層のいっそうの貧困化も手伝って、社会階層が次第に固定化しつつある。貧しい者が貧しいままに人生を終え、その貧困が世襲されていくことになるのではないか、そしてそのことが日本の社会と経済からダイナミズムを失わせていくのではないか、というもっともな懸念が、いまほど現実味を帯びている時代は、すくなくとも僕が知るかぎりなかった。
 この国は、いつからか経済も社会も停滞期に突入したらしい。
 そのことにはだれもが気づいていて、だからこそ、たとえば政治家は、政権党も野党もこぞって「新・成長戦略」なることばを頻用するようになった。その具体策については微差があるとはいえ、少子化時代に予想される社会保障・福祉コストの増大に対応するには、なんらかのかたちでの右肩上がりの経済成長が不可欠だ、という基本的な認識は共有されているように見える。
 いっぽう、産業界でこのところ元気のいい企業のなかには、停滞する日本には拘泥せずに、地球大で見て活力のある地域が提供するビジネス・チャンスをわがものとするために、企業風土を欧米のグローバル企業に匹敵するものにしなければならないとかんがえて、社内公用語を英語にスイッチするところが現れはじめた。すでにルノーの子会社になっていて、その以前からもグローバル市場を相手にしてビジネス展開をしてきた日産自動車が、いち早くそうしたのは理解するのがたやすいが、楽天やユニクロといった経営的には純日本企業だったところまでが英語公用語化とグローバル化宣言をした。営利企業としては、地盤沈下しつつあるこの国と一緒に沈んでいきたくはない、ということなのだろう。
 真相がどうあれ、この国の長期にわたる経済的・社会的停滞状況が、財界や政界におけるこうした動きを発動させていることはたしかだ。
 しかし、かつて栄えた国や経済が衰弱することは、古代ギリシャや古代ローマ、近代スペインや現代イギリスを引き合いに出すまでもなく歴史のことわりである。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は、永遠につづかないだけでなく、二度と再来しもしない。諸行は無常であり、盛者は必衰なのだ。日本の自動車保有台数はこれからも、人口とおなじように減りつづける、と見ることが、冷静な、つまりは、感情的で主観的な願望によって現実を粉飾しないという意味で科学的な、見識であろう、と僕はおもう。ならば、かつてのような経済成長の再来を夢見るのではなく、成長しないことを前提に、僕たちがどうやって、人間としての最低限の威厳を保ち、洗練度を高めていくか、ということが問題なのだ。
 ENGINEはこの号で創刊10周年を迎えた。自動車ばなれの趨勢のもとでの10年だった。みなが自動車にアツかった時代の再来を夢見ることなく、クルマ好きの威厳を保ち、洗練を深めることを、これからも課題にしていきたい。 (鈴木正文)
 
 
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