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from EDITOR|ENGINE 2008.3 No.090


 ミラノで1月中旬におこなわれた次の秋冬のメンズ・コレクションを見た。一流どころのファッション・ブランドは、毎年1月から2月に次の秋冬の、そして6月から7月に次の春夏の、新作コレクションを発表する。世界中のバイヤーの買い付けのためだけれど、そのとき雑誌や新聞などのジャーナリストにも見るチャンスを与える。ジャーナリストは、ニュー・コレクションを見て、トレンドを予測したり、出来ばえを批評したりする。ファッションの専門ジャーナリズムの場合、批評の眼目はクリエイティヴィティに置かれるが、一般ジャーナリズムは時代風俗や時代の気分と関係づけて、デザイナーたちやブランドの現代性を評価する。
 ミラノのメンズ・コレクションに参加する高級ブランドは、ほとんどの人がすくなくとも名前だけはよく知っている大物が多い。なかでもいちばんはジョルジオ・アルマーニだろう。そのブランドのポジションは、自動車でいえばメルセデス・ベンツのようなものかもしれない。
 アルマーニは、1970年代後半から1980年代にかけて世界中のメンズ・スーツを風靡した通称「ソフト・スーツ」の考案者である。構築的で甲冑のようだった男の重いスーツを、やわらかですべらかな、着やすくて軽いものにしつつ、テイラード・ジャケット特有のクリーンなラインとシルエットを保存し、それに現代的なフィット感を与えた。世にいう「アルマーニのアンコン革命」で、アンコンとは「コンストラクティヴ=構築的」でない、ということだ。ファッション界の大御所も、最初は革新的な「ニュー・ルック」の旗手だった。ファッションにおいてはいつの時代も、あたらしさこそがもっとも大事な価値なのである。
 そのアルマーニの新作ショウでは、細身のジャケット/スーツ&タイというルックが圧倒的に多かったが、テイラードを着て登場するモデルすべてにイキなハットを被せたり、手に持たせたりしていた。かれが衣装を担当したハリウッド映画「アメリカン・ジゴロ」や「アンタッチャブル」に登場した男たちをもおもわせる正統派的エレガンスである。そういうエレガンスこそがいまあたらしいファッションだという主張が、そこからは聞こえてくる。
 アルマーニがメルセデス・ベンツだとしたら、ミウッチャ・プラダがデザインを指揮するプラダは、さしずめBMWやアウディだろうか。クリーンでフレッシュで、体制的な「主流」にいつも果敢にたたかいを挑んできたからだ。そんなプラダの新作は、アルマーニ的な男の正統派的エレガンスの世界とは打って変わって、ピュアにそぎ落としたシルエットを持つスーツとジャケットが、クラシックなテイラリングのうつくしさを際立たせてはいたものの、男性的というよりは、ノン・セクシュアルな中性性を強く印象づけるものだった。
 それはたとえば、ジャケットの下に着るシャツが、女性のブラウスのように後ろでボタン留めするようになっていて、前身ごろは僧服のようにボタンもなかったり、しかもそのうえにベスト代わりにエプロンのような胸当てをさせたり、というようなセックスを超越する修道士・修道女的な、そしてときに女性的だったりするモチーフの反復に現れていた。そして、オーバーコートを一着も登場させなかったのも、コート姿の男性の男っぽい強さのニュアンスを嫌ったからだろう。
 ミウッチャ・プラダが従来から、男の着るものから権威や権力につながる雰囲気を奪い取っていこうとしてきたことは明白だけれど、この「男性性」へのファッションによる攻撃は、パワーとステータスを顕示しないし、それを一義的に追い求めない価値観を、かの女が現代の男性に希求するからである。それはむろん、かの女ひとりの希求ではない。社会と文化のさまざまな場面で、いわゆる「男社会」の克服にうごいている現代という時代の希求でもある。
 ほかにはグッチが「ロシアのロックンロール」と銘打ったコレクションを展開し、石油バブルに沸くロシアと移り気な時代に秋波を送るという、いかにもファッション乗りのものもあったが、ドルチェ&ガッバーナは、この数年つづいた時代の表層を追いかける素振りをやめて、男性服の定番的ワードローブに沈潜するなど、ITバブル期に顕著だった「セクシー」さを競い合うトレンドは終わり、それぞれのブランドが男の服の本質にたいする配慮を前面化させてきた。「男の服の本質」をさぐるということは、そのまま、男の本質的価値をさぐるということだ。現代の「男」についてあたらしいヴィジョンを持つことでもある。メンズ・ファッションがおもしろい時代になってきた、とおもう。
(鈴木正文)
 
 
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