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ルカ・カプライ&PORSCHE 356 A CABRIOLET


いきなりトップをねらって行動を起こしてみる。



文=鈴木正文(本誌) 写真=森川 昇




世界最高って?
 世界で最高のクルマは?
 とたずねられて、ある人はロールズ・ロイスというかもしれないし、いやフェラーリだ、いやメルセデス・ベンツだ、という人もいるだろう。どれが世界最高のクルマかについての意見は割れるだろうが、だからといって、世界最高のクルマがありえないということにはおそらくならない。いくつかの候補が挙がる。たんに評価がわかれるだけだ。
ルカ・カプライ&PORSCHE 356 A CABRIOLET
 しかし、世界でもっとも美しい山は? 世界でもっとも美しい女性は?とたずねられると、そんなことは決められない、とだれもが思うにちがいない。それらは複製可能な工業製品ではなく、それぞれがゆいいつのモノであり、ヒトだからだ。くらべることはできるが、道具じゃないのだから優劣はつけられない。
 つまり、世界最高のナントカは?という質問が意味を持つためには、そのナントカが工業製品で、道具として果たすべき機能があるものである必要がある。今月の「表紙の男」ルカ・カプライさんは、ニット製品の分野で世界最高レベルに属するブランドとして台頭いちじるしい“クルチアーニ”を送り出しているイタリアのニット・メーカー、マリタル社の若きCEOである。
 クルチアーニはその道ウン十年、ウン百年の“老舗”ではない。はじめてのコレクションを発表したのは1995年だから、まだ10年もたっていない。ペルージャを州都とするイタリア中北部、ウンブリア州に生まれ育ったかれ、ことし38歳になろうとしているルカが、自力でつくり上げた新興ブランドだ。それが短期間のあいだに、いまある名声を獲得することができたのはなぜか?
「クルチアーニでは、本当に最高品質のニット製品だけをやろうと思っていました。それでマーケットを調査してわかったことが2つあったのです。ひとつは、本当に高品質のニット製品は、あまりにクラシックすぎて、古くさかった、ということ、もうひとつは、ファッション性の高い製品は、概して品質が低かったということです。そこで、高品質だけれどモダンなものがもとめられているはずだ、と思いました。クルチアーニが成功したのは、トップ・レベルの高品質でありながら、サイジングやスタイルが現代的だったからだと思います」
 いまの時代を感じさせるファッション性と素材をふくむ品質の高さを融合した点に成功の秘訣があったというわけだ。しかし、95年にはわずか12人だったマリタル社の社員が、いまでは100人以上になっているいう急成長の秘密がそこにあったとして、そもそもそこにポイントがある、とかれが見抜けたのはどうしてか、そして世界中の名だたる高級セレクト・ショップが、こぞってクルチアーニのニット製品を仕入れるようになったのはなぜなのか?


セレクト・ショップ
 「クルチアーニのビジネスをはじめるにあたって、私はまず、イタリアの一流のブティックを経営している人たち、現場を引っ張っている人たちに会いにいきました」
 ねらいははじめからトップ・クオリティのプロダクトを扱っているショップだけにしぼっていた。イタリアにはもちろんたくさんそういうショップがあるが、それでいて時代の波に乗っているファッション性も備えた高級店となると、おのずと数はかぎられてくる。ルカは高級ファッション雑誌を買いあさり、ミラノの「マリーザ」、トリノの「サンカルロ」、ペザロ(アドリア海沿いの高級リゾート)の「ラッティ」などをリスト・アップ、オーナーを訪れ、「いま何が欠けているのか」を訊いてまわった。「モダンなセンスの、本当に品質の高い製品」というクルチアーニの商品コンセプトの核になるアイディアがこうした過程でかたまっていったという。「取り引きしてもらいたいと思っていたお客さんに教えてもらったわけです」と。ちなみに、これらのショップのオーナーたちとは、その後も継続して人間関係をつくりつづけ、いまでは用事がなくても定期的に会ったり話したりする親しい間柄でいるのだという。
 コンセプトには当たりがついたとはいっても、ルカはニットの老舗ブランドの出身ではない。ファミリーは紡績会社や染物工場に出資していたし、66年に父親が設立したマリタル社はニット製品の工房ではあったが、自社製品を小売りしたことはなかった。他社製品の下請けをしていただけだった。高品質の製品もつくっていたが、そうでないものもつくっていた。ということで、クルチアーニ・ブランドのコンセプトを商品化するには、あたらしいスタッフを集めなければならなかった。しかも経験がゆたかで有能な人たちを。
「特技は人間関係」というルカが、持ち前の不思議な交友の範囲内から人をさがしはじめると、イタリアの高品質ニット・メーカーの、業界では有名なプロダクト部門の責任者やニット技術部門の責任者などが、ちょうどそれぞれの会社をやめたばかりの状況だった、という不思議な幸運もかさなり、キイとなる人材の獲得に成功するのだった。ニットのことをよく理解しているデザイナーもチームにくわえて、サンプルづくりがはじまったのは93年のことだったという。



クルチアーニ・ピープル
 その後のサクセス・ストーリーを追っていくだけのスペースはないが、クルチアーニの製品はあっという間に世界のほとんどの高級セレクト・ショップの陳列棚に並ぶようにった。コンセプトは正しかった。品質の高さについては、たとえば高級スーツのトップ・ネームであるブリオーニやキートンが、自ブランドのニット製品を特別にクルチアーニに発注していることによっても証明されているし、モダンなスタイルが受けたことは、売り上げの増加によってもそうだが、老舗の高級ニット・ブランドが近年つぎつぎと、スタイルをどんどんモダンに変革してきていることによっても裏打ちされている。
 ルカはこの成功にもちろん満足しつつも、いままたあたらしいことを実行に移しつつある。“モダンで高品質”であるうえに、もっと特別感のある個性的なラインもつくろうとしているのだ。それはかれの不思議な交友関係を生かした“クルチアーニ・ピープル”というシリーズとしてこの春夏から登場する。第1弾はスペイン、レアル・マドリードのスター・プレイヤー、ラウルとのコラボレーションによる「トンボTシャツ」。ラウルが好きなトンボの図案をプリントしたシャツで、もともとは親しくしているラウルからのパーソナルなリクエストでつくったものだったが、それを商品に落とし込んだ。次の候補もすでにかんがえているという。それももちろん、ルカと親しいセレブリティだそうだ。ルカがセレブたちとどうやってそれほど親しくなったのか、それはナゾだ。
 いずれにせよ、いきなり頂点に的をしぼって行動を起こし、キイになる人たちとパーソナルな人間関係を結ぶというルカのやり方は、ビジネスの成功モデルとしては使えそうだ。



ポルシェ356
第2次大戦後まもない1949年春のジュネーブ・ショウでデビューしたポルシェ356は、その快適な高速巡航性能でもって、まったく新しいスポーツカー像を提示した。それまでのスポーツカーはスパルタン一辺倒。雨が降れば雨に濡れ、乗り心地は硬く、長距離にはまったく不向きだった。356は不断の研究と改良の積み重ねで、17年後に911に進化。
911は先年、40周年を迎えた。ポルシェの原点、それが356なのである。
写真は、356Aカブリオレ1600S(1956〜59年)。1582ccで圧縮比は8.5、最高出力は75hp/5000rpmだった。
 
 
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